2017.04.10
私たちの身体は約37兆個の細胞で構成されています。そして細胞一つ一つには必ず核酸『DNA』をもっていて、DNAのうち、生きるために必要なさまざまなタンパク質を合成する設計図にあたる部分を『遺伝子』といいます。
私たちが起きているときも寝ているときもヒト細胞は分裂を繰り返し、古い細胞は死に、また新しい細胞が生まれる、という代謝のサイクルを常に行っているわけですが、正常な細胞からいつも正常な細胞が生まれるとは限りません。
食生活、化学物質、放射線(紫外線)、ウイルス、老化…etc、さまざまな要因によって、細胞分裂の過程で遺伝子が変異を起こして必要なタンパク質が合成できなかったり、死なずに異常増殖を繰り返すような細胞が生まれてしまうことがあります。これががん細胞です。そういった意味でがんは遺伝子の疾患ととらえてもよいでしょう。
ここで、「p53」 「TRAIL」 といった略語を聞いたことはあるでしょうか。
これらは、私たちの身体の中で、細胞内の遺伝子が変異を起こしてしまい細胞ががん化して異常増殖する前に、細胞そのものを自滅(アポトーシス)に導く過程で働くタンパク質のことです。正常細胞のDNAには、これらタンパク質を合成するための遺伝子が備わっていますが、がん細胞の遺伝子には欠損していることがわかっています。
がんを遺伝子疾患としての側面からとらえて、最先端の遺伝子工学によって欠損した遺伝子をがん細胞にだけ送り込み、遺伝子を『はめ込む』『置き換える』ことで正常な細胞と同じように『p53』『TRAIL』を発現できるようにするという『がん遺伝子治療』が確立しつつあります。
がん遺伝子治療は、免疫療法と並ぶ副作用のない新たながん治療法としてこれからますます注目されていくことでしょう。